少し前に翻訳の手伝いをした本が形になったので、紹介したい。
ダンヒルの名はご存じの方も多いと思うが、本著は創業者の娘が書いた自伝である。創業者の父親は起業する人のご多分に漏れず、好奇心が旺盛で奇想天外。その人柄に引き込まれつい読み進めてしまった本である。
二代目は会社を潰すとよく言われるが、事業が次の世代へと継承され、現在の規模に拡大されるまでには紆余曲折があった。そして娘であるメアリーの視点で物語が進行する。フィクションとして読むと一族に降りかかる災難・苦難は、これだけの富と名声を得た事業であればありがちとも言えるが、ひとりの女性が体験したことと置き換えてみると、まるで小説のような人生である。父、叔父、三人の兄を中心に事業が展開するのを端から眺めていた少女が、事業の中心へと躍り出て、結婚、出産、育児、別れと日々奮闘する姿は、時代を超えて共感できる。
一人称で語られるメアリー自身が書いた自伝であるため、原書はところどころ読みにくい箇所があったのだが、訳者の方は編集者でもあるため、その点は上手くまとめているのではないかと思う。
女性視点で描かれた起業本は何冊もあると思うが、ダンヒルが今の規模になり、それでもなお存続し続けているのはなぜか。そのルーツには創業者一族の歴史をひもとくとヒントがあるかもしれない。
200ページと薄めの本なので、書店等でお見かけの際にはぜひ手にとって、読んでみてもらいたい一冊である。
『ダンヒル家の仕事』メアリー・ダンヒル (著)、平湊音 (翻訳) 、未知谷