ミシシッピ冒険記〈ぼくらが3ドルで大金持ちになったわけ〉ダヴィデ・モロジノット 著、中村 智子 訳(岩崎書店)

 何を話してもネタバレになってしまいそうだが、まずはタイトルがいい。ミシシッピ冒険記〈ぼくらが3ドルで大金持ちになったわけ〉。マーク・トウェインの『トム・ソーヤーの冒険』でしょ? と思うわけだが、ミシシッピ川を南から北へと向かう冒険は、物語に出てくるカタログ、新聞、地図に彩られ、フィクションでありながらも、リアルな世界へと読者を引き込んでいく。登場人物は主に子ども4人。子どもと言っても子どもと大人の狭間にいるヤングアダルト(YA)。冒険記と聞くと、男の子の話? と思うが、4人のうちのひとりは女の子である。


〈ぼくらが3ドルで大金持ちになったわけ〉とサブタイトルにあるので、タイトル自体がネタバレかと思いきや、物語は大きな謎解きへと展開していく。


 児童書でしょ? と思うかもしれないが、男の子、女の子、大人も十分に楽しめる作品だった。ドイツ児童文学賞ノミネート、イタリアアンデルセン賞などを受賞し、13の国と地域で翻訳出版されているだけあり、期待を裏切らない1冊だった。


 物語は1900年ごろのアメリカ南部、北部を舞台としており、黒人や女性に対する差別が残っている。扉の部分に作者から読者への注意書きがあり、作品内に出てくる差別、暴力は今では受け入れられないものの、当時はよくあったことと説明してあり、子どもから大人への階段をのぼっていく少年少女たちにぜひ読んでほしい作品である。


 とはいえ、1700円の本を買ってくれるのは大人かもしれないので、少し大人向けのコメントも書いておく。この物語には、1900年ごろのアメリカの地図、歴史が出てくる。そんな昔の話、聞いたって役に立つの? とつい思いがちだ。人種差別が色濃く残るアメリカ南部。頭に布を被り馬に乗った人たちも出てくる。この時代、黒人はまだ地位が低く、白人が地主の農場などで召使いや労働者をしていた。物語は1904年に始まるのだが、「南部 奴隷 1904年」で検索すると、ミシシッピ州でリンチされて殺された黒人2人のニュースがでてきた。フィクションではなく、私たちの暮らすこの世界で起きたことだ。スマホもなかった時代のことを子どもたちに理解させるのも難しい近ごろだが、100年くらい前にはまだそんなこともあった(そして残念ながら今のアメリカでも同じような事件は起きている。2020年にミネソタ州で起きた白人警官による黒人男性ジョージ・フロイドさん殺害事件は記憶に新しい)。また、女性の参政権がアメリカで認められたのは、1920年8月26日のことで、2020年には100周年記念シンポジウムが開催されている。フィクションの世界と私たちの日常は繋がっている。歴史、地理、黒人差別、女性差別、違法なギャンブルなど、教科書も顔負けの教材だ。本を読んで感想文を書き、興味をもった社会問題について調べたら、社会科の宿題も終わってしまいそうな内容である。面白かったよ、と誰かに薦めたくなる本だ。400ページ近い本なのだが、一気に読んでしまった。最後は謎解きなので、『名探偵コナン』などの探偵物が好きな少年少女も楽しめるだろう。


 子どもたちは今は春休みだろうか。休みの間にぜひ手にとってほしい作品だ。卒業入学のプレゼントにもいいよ!


 最後に、この本を訳している方は、ドイツの児童文学・YAを中心に書籍を翻訳している南ドイツ在住の中村智子さん。長編にもかかわらず読みやすいのは、中村さんの書く文章がテンポよく冒険を描き、ときには優しく語りかけてくれるからに違いない。冒険の物語でもあり、友情の物語でもある。新学期の朝読書に、中学生の少年少女にもお薦め!

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