参加しているヤングアダルトの勉強会の課題で書いた文章なのだが、ここに掲載しておくことにする。最終更新日は、2023年3月9日。
なぜ子どもの本を訳すのか
矢能千秋
ロシアがウクライナに侵攻して戦いが続いている。侵攻から1年が経ち、隣国から武器が供与されて、新しい武器の試験場、古い武器の処分場になっているように見える。陸続きで国境が接する大陸では、よくあることなのだろうか。テレビで戦いのニュースが毎日当たり前のように流れている。
息子が18歳になったときに自衛隊から勧誘の案内が届いて、玄関で地面がぐらぐらするような恐怖を感じた。個人情報を渡した自治体にも腹が立った。基地に近いところに住んでいるので、自衛隊や米軍に所属する知人はいる。大学へ行く学費のために米軍に入った人もいるし、防衛大に入った人もいる。
アメリカに留学していたときに、湾岸戦争が始まった。ビデオゲームのように暗闇をぴゅんぴゅんと砲弾が光りながら飛んでいく様がテレビに映っていた。子どものころに『はだしのゲン』を読んで、戦争はいけないものだと思っていた。クラスで戦争の話になり、戦争に賛成の人がいて反論できずに悔しい思いをした。戦いは避けられないのだろうか。
息子が大学に通い始めた。工学部だ。進路はまだ決まっていないが航空工学に進むようであれば最先端技術は武器に繋がる。平和利用はできないものだろうか。
お母さんは戦争反対だからね、と息子に言う。
戦後78年と言っていたが、戦争を体験した人たちが死んでいき、戦争を知らない者たちがまた若者を戦争に送り込む時代がきてしまうのだろうか。毎日のようにロシアとウクライナの戦いの映像が流れてくるようになって1年が過ぎた。子どもたちはどう思っているのだろうか。
子どもたちに平和教育をすることで防げるのではないだろうか。原爆の被害を受けた広島の教科書からビキニ環礁でアメリカの水爆実験で被爆した「第五福竜丸」の記述が削除されるという。軍拡した政府にとって都合が悪いものは子どもには教えないのだろうか。わたし自身も戦争を知らずに育ってきた。語り部にはなれないかもしれないが、翻訳を通して物語を伝える手助けができるのではないだろうか。
戦争反対と声高に叫んでみたところで届くのだろうか。理解してもらえるように伝えるのは難しい。『チャンス: はてしない戦争をのがれて』を読んだ。帯には「ぼくと家族が生きのびたのはまったくの偶然(チャンス)だった」と書いてある。淡々と子ども目線で生きのびていく様が語られる。物語に織り込まれた著者からのメッセージ。
侵攻から1年。戦争をテーマにしている本は増えているのだろうか。日本は島国だけど、隣国の戦争に巻き込まれることはないのだろうか。少しでもよい未来を子どもたちに残したい。そんな本が訳せたらいいな、と思う。
参考:第五福竜丸も記述削除 中学生向け 広島市教委 平和教材から | 中国新聞ヒロシマ平和メディアセンター https://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=129045