【感想】カルロス・ルイス・サフォン『風の影』シリーズ

 カルロス・ルイス・サフォンの『風の影』シリーズを読み終えたので、記憶が新しいうちに感想をまとめておく。2022年8月7日に全国翻訳ミステリー読書会YouTubeライブ第10弾「夏の出版社イチオシ祭り!」で紹介された本の1冊だ。その場で読書会の課題書に選ばれたので、手に取ることとなった。同シリーズは、『風の影』上下巻、『天使のゲーム』上下巻、『天国の囚人』、『精霊たちの迷宮』上下巻の4部作で構成され、バルセロナを舞台として、1917年から現代まで、親子4世代を中心に描いた歴史、恋愛、冒険ありのミステリーだ。

 ふだん、英米小説を読むことが多いので、スペインの巨匠による官能的な描写に戸惑いを覚えることもあったが、スペイン語原書で総ページ数は2520ページにもおよぶ4部作は伏線を回収しながら見事に完結した。『精霊たちの迷宮』だけでも文庫本で1300ページあるが、それほど長さを感じさせない作品だったのでぜひ手に取ってみてほしい。

 簡単に、それぞれの作品について書いてみる。

 まず1作目の『風の影』上下巻だが、舞台は1945年のバルセロナ。「センペーレと息子書店」の息子ダニエル少年の成長譚であるが、父に連れて行かれた「忘れられた本の墓場」で『風の影』という本と出会い、謎の作家フリアン・カラックスとダニエル少年の人生が、時を超えて響き合っていく。下巻の帯に書いてある言葉を借りるとまさに「時を超えて響き合う、二つの人生、二つの恋。ダニエルの『未来』と謎の作家カラックスの『過去』が交差する」だ。

 1作目はそれ自体が単体で完結しているのだが、大作の面白いところは、時代を超えて人と人が繋がり展開する点だ。

 2作目の『天使のゲーム』上下巻は、時を1917年に移し、物語は1作目に登場したダニエルの父と祖父の時代にさかのぼる。今回はもうひとりの作家ダビッド・マルティンが登場する。「忘れられた本の墓場」の管理人イサックなど『風の影』に出てくる作中人物も若返って登場し、1作目で描かれた世界が広がっていく。この作品のエピローグは、1945年6月に終わり、1作目の『風の影』上巻の冒頭へと続く。2作目のあとがきには、こう書いてある。「四つの扉があって、それぞれの入り口からなかに入ると、共通の宇宙がひろがっている」。

 2作目まで読むともう、止まらない。3作目の『天国の囚人』は1作目の続きで、舞台は1957年のバルセロナ。ダニエルは青年になり、父の書店を手伝っている。書店員フェルミン、作家のマルティン、2作目で登場するイサベッラの過去が繋がっていく。3作目の冒頭に書かれている説明がわかりやすいので紹介する。

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忘れられた本の墓場

 本書『天国の囚人』は「忘れられた本の墓場」の文学宇宙で交錯する四部作のひとつである。『風の影』『天使のゲーム』に続くこの連作は、各巻が完結、独立し、まとまった内容をもつ小説でありながら、テーマ、ストーリーをつなぐ人物やプロットを介して、たがいに結びついている。「忘れられた本の墓場」のシリーズは各々、どんな順に読んでもよく、異なる入り口から、異なる道をとおって迷宮に分け入ることができる。その道がやがて結びあい、読者を物語世界の中心に案内してくれる。

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 3作目ではダニエルは1児の父親になり、ダニエルの亡き母が明かされる。書店員フェルミンの過去が語られる中で、内戦直後(1936~39年)と作中の現在(1950年代)を背景に物語が展開する。同シリーズは映像化の話が何度もあったそうだが、「読者が頭のなかの劇場で見るものが、最高の映画だ(p372)」として、サフォンは首を縦に振らなかったという。映画向きの作品だと思う一方で、映像では描ききれない作品世界を存分に味わってほしい。

 4作目ではダニエルは店主となり、息子のフリアンも登場する。舞台は1959年、マドリード。『風の影』から15年、遂に物語が完結する。保安組織の捜査員アリシアを中心に、マドリード、バルセロナ、パリ、アメリカと物語は伏線を回収しながら、フィナーレを迎える。11月19日に読書会があるそうなので、これから読めば間に合うかも? そろそろネタバレをしそうなので、この辺で。

札幌読書会 presents カルロス・ルイス・サフォン祭り
第三弾『精霊たちの迷宮』オンライン読書会

11月19日(土)16:00〜18:00

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